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中倉は、俺が仕事ばかりを優先して彼女を蔑ろにしたことを責めているのか。
「考えてるよ。でも、仕方ないよ。仕事が落ち着くまでは。」
「じゃあ、もう美和子に連絡してくるな。」
「お前にそんなことを言われる筋合いはない。なあ、中倉、美和子はどうなんだ?俺のこと、嫌いになったのか、聞いてくれ。」
「お前のこと、嫌いになんてなるはずないだろう。」
「えっ?」
「お前は卑怯だ。いつまで、美和子の中に居続けるつもりだ。」
「は?意味がわからねえ。」
「あのな、いい加減、もう気付いてくれ。」
「何を?」
「お前、もう死んでるんだ。」
中倉は何を言ってるんだ。
意味がわからない。
「お前、もう三年前に死んでるんだよ。会社で過労死したんだよ。」
急に目の前の車窓が遠くに見える。
「な、何をバカな。」
ああ、これは車窓ではない。
目の前の窓は、オフィスの窓。
その窓の向こうに、机に突っ伏した俺の姿が見えた。
微動だにせず、ただただデスクの光だけが、艶の失せた髪の毛と血の気のない頬を照らしている。
あれは、まぎれもない。
俺だ。
「つぎは~、きさらぎ~終点、きさらぎ~。」
突然オフィスの窓は、車窓に戻った。
遠くで彼女の泣き声がする。
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