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きさらぎ行きの電車に乗って⑤
一人オフィスに残って窓の外をながめている。
窓の外には、あんなに光が溢れているのに、この空間には、デスクの心もとない光がひとつだけ、終わりのない仕事をぼんやりと照らしている。
ため息を一つ。
最近、まったく彼女と会えていない。
もう寝たかな。
「起きてる?」
つい寂しくなって、通話アプリにメッセージを入れる。
既読にならない。
そうだよな、寝てるよな、この時間なら。
終わらない仕事に、とりあえずの目途をつけると、オフィスを後にした。
「お疲れ様」
ビルの警備員に声をかけると、ぎょっとした顔をし、そのまま無視された。
まさか、この時間まで仕事をしている人間がいるとは思わなかったのだろうか。
最近の若い者は・・・などと思うようになったらもうダメなんだろう。
駅から近いだけが取り柄の会社だが、疲弊した体にはそれすらありがたい。
疲れ切った体を電車に預けると、泥に沈み込むような疲れが俺を眠りに誘う。
ポケットの携帯の振動でその眠りから引きはがされた。
「起きてるよ」
俺は、その文字に頬が緩む。
「寝てたんじゃないの?」
「お風呂入ってた。」
「そっか」
「どうしたの?」
「いや、最近会えなくて、ごめん。」
「仕方ないよ。仕事でしょ?」
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