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寛永3年、江戸で指南役として暮らしていた柳生十兵衛三巌に将軍家光から突如として、暇が出された。
十兵衛は小田原へと蟄居となり、数日が過ぎたある日、父宗矩から1通の手紙が届いた。
いつも通りに飲み屋で一杯引っ掛けていた十兵衛の元に、付き人の『カラス』が店に飛び込むなり一声を上げた。
「親方!父上殿から文がまいりましたぜ!」
カラスは小柄でひょうきんな男だ。蟄居の後、それでは不便だろうと十兵衛の父柳生宗矩が十兵衛に付き人として送った人間だ。彼は甲賀の忍びで、薬学に精通する特技を持つ。十兵衛の身の回りの世話役もする。
長髪を結い、隻眼に黒い髑髏の付いた眼帯をはめる十兵衛の出で立ちは、他者から見れば異様に見えないでもない。
酒好きな十兵衛は暇を出された後、毎日のように飲み屋に入り浸り、暇を弄ばしていた。
「何!?父上から?今更何を…まぁいい、見せてみろ!丁度暇であった。」
文にはこのような内容が書かれていた。
『主の言う指南役の務めと言うのもわからぬでもない。しかしながら、この御時世、剣だけでは食べて行けぬのも事実。殿よりお暇をいただいたのは訳あっての事じゃ。決してお主を疎んじての事でないのを承知していてもらいたい。
実はまだ世の中が完全には安定しておらぬゆえ、巷には幕府に仇なす輩がいるやもしれぬゆえ、お主には公儀隠密として動いてもらいたいのじゃ。
急ぎ仕度を整え大和の柳生の里へ向かへ!道中不定の輩がおれば、これをただし、主独りで手が負えぬならこちらに文をよこせ』
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