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それを見ていた山賊のリーダーらしき男が呟いた。
「何を!?」
咄嗟に手裏剣を投げつけてきたが、それを十兵衛が刀で弾き返すと、その中のひとつが運よく山賊リーダーの肩をかすって、血が吹き出た。
「くう…強い…。ここは退散じゃ!皆のもの引けえ!引けえ!」
そう言うと、落馬した者たちも含め、山中に逃げかえって行った。
彼等が逃げ道として使ったのは、獣道であった。普通は使わない道である。しかも、あの馬術と手裏剣…。十兵衛にはちょっと引っ掛かるものがあった。
一味が退散すると、十兵衛は旅の娘に近寄って行った。
「大丈夫でごさるか?」
「あ、ありがとうございます」
よく見ると娘は脚に怪我をしているではないか。十兵衛は懐から手拭いを出すと、傷に結びながら、こう言った。
「これでは、箱根の山はこえなれまい…近くの宿屋までお連れいたすので、拙者と一緒に来るがよい」
「何から何までありがとうございます!なんとお礼をしたらいいのか…」
「気にするでない。武士としての本懐じゃ」
十兵衛はカラスに向き直るとこう言った。
「一路小田原へもどるぞ」
「は?小田原に戻るので」
「うむ、あやつらただの山賊ではない。少し気になるのでな」
そうして、一行は再び小田原を目指した。
道中、カラスは疑問に思っていた事があった。切り捨て後免状をもらった十兵衛が何故山賊を峰打ちにし、切り捨てなかったのか?
カラスは拾った手裏剣を見ながら、その事を聞いてみた。
「親方、あの連中、あの馬術、そしてこの手裏剣、相州乱破に間違いありやせんぜ。大権現様の代に我が同胞高坂甚内と言う甲斐の国の素破に垂れ込まれて、頭領風魔小太郎共々根絶やしにされたと聞いておりますが…まだ残党がおるのでやんすかね?しかし、何故、山賊どもをお切りにならなかったんで?」
十兵衛はちらりとカラスに眼差しを向けるとこう答えた。
「我が剣は活人剣、いかに山賊と言えどもむやみに人を切ってはならぬ…」
成る程、剣の道は奥深い。たかだか一介の忍びであるカラスにはわからぬ事であった。
「流石でやんすね」
そうして日がくれる街道を小田原へと急いだ一行であった。
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