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朔也がまた泣いている、いつもより少し歪んだ顔で。丸い粒がぽろぽろと頬をつたって落ちていく。朔也の泣き顔は綺麗だけれど、それは笑顔がそのあとに続くから。だから僕のために笑って朔也。
「……やっと、やっと目をあけてくれました」
「良かったですね、持ちこたえられないかと思いました。君もよく頑張ったね」
その男性の手が優しく触れた、この人の手は朔也と同じ暖かさ。安心する、そう思ってまたゆっくりと目を閉じた。
その翌日、朔也がまたやって来た。白い扉と白い壁の部屋に入ってくる、その瞬間だけはなぜかわかる。目を開けていたいけれど、瞼が重たくて話の途中で疲れてしまう。
「今日さ、会社で……」
最後まで聞いてあげたいのに、音が聞こえづらい。目もよく見えない気がする、どうしたのだろう。朔也は毎日、毎日、仕事帰りに僕に会いに来てくれる。いつも話しかけてくれて、そっと頬に触れて。そしていつも先生と少しだけ話をしてから帰る。
「ねえ、コウタ任史さんのことどう思う?素敵だと思わない?」
そう朔也が僕に告げてきたのは、数日後のこと。重たい瞼を押し上げるようにして確認すると、その顔にはもう殴られた痣は見あたらなかった。良かった、あの男とは別れたのだろうか。聞きたいのに声も出ない。
「朔也君、少し……いいかな?」
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