最愛の人

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 身体が少しだけ動くようになった、ようやく自分で水を飲むことができた。きっと朔也は喜んでくれるだろう、その笑顔のためにももう一度元気になりたい。  「先生、もう大丈夫ですか?」  久々に涙もみせずに朔也が笑う。  「怪我は回復に向かっているよ」  「ありがとうございます、先生のおかげです」  「いや、これが僕の仕事だからね。コウタ君も君もよく頑張ったね。それより少しだけ時間あるかな?」  朔也は先生に呼ばれて嬉しそうに後をついて行った。知りたくないのに僕にはわかってしまう。先生の朔也への気持ちは僕が朔也に向けるそれと同じ温度だということが。そして、朔也が先生に向ける感情は、僕に向ける感情とは違っているということも。  「独りにしないで」  小さい声が出た、けれどその言葉は朔也には届かなかった。だれもいなくなった部屋で僕は、ただ愛しい君の事だけを想った。しばらくして戻ってきた朔也は悲しそうな顔をしている。ぽろぽろとまた粒になった真珠が落ちる。  「ねえ、大丈夫だって言って。おいて行かないで、お願いだから」  僕のそばに崩れ落ちるように座り込んだ朔也は本当に悲しそうな声を出して泣いている。その叫びが僕のいる部屋に響いて部屋を朔也の悲しみで満たしていった。  「朔也君、仕方ないんだ。怪我は治っても……」  先生は僕の隣で涙を落とす朔也を後ろからしっかりと抱きしめた。  「出来るだけのことはやったよ。けれど、ここまでなんだ。しばらく一緒に居たいかい?席を外しているよ」  先生は朔也の髪に優しく口づけると、部屋を出て行った。そんな気はしていた。もしかしたらと思っていた、もう僕には残された時間が少ないということなのだろう。  神様、どうかお願いです。  残りの命の炎と引き換えに、今朔也を抱きしめさせてください。朔也に愛していると伝える術を与えてください。それ以外何も望みません。  
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