命の火

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 「雨の夜に凍えている僕を拾ってくれたあの日から、僕は朔也の特別になりたかった。神様にお願いして、もらえた時間はほんの少しだけ。だから、最後に朔也を抱きしめさせて」  「コウタ、嫌だ。嫌だ、駄目だって。どこにも行かないで、お願いだから」  「もう時間(いのち)が終わるんだ、先生に聞いたでしょう?今までありがとう、泣かないで笑って」  「コウタ、コウタ、駄目だ、いやだ……」  「ああ、やっぱり朔也の涙は綺麗だ。もう僕にはその涙を拭ってやることもできないけれど」  最後に朔也を両手で抱きしめる。しっかりと抱きしめて、腕の中にいる愛しい人の存在に安心する。こうやって君を抱きしめる手がずっと欲しかった。こうやって朔也と話せる言葉が本当に欲しかった。もうこれで十分です、神様ありがとうございます。僕の気持ちを伝えるチャンスを与えてくれて、本当にありがとうございます。  「ありがとう朔也、さようなら」  「い…や……だ」  朔也の涙でぐちゃぐちゃになった顔がうすぼんやりとして消えていく。大きな声を上げて泣き出した朔也を駆け寄ってきた先生が抱きしめるのが見えた。良かった、ここで彼に朔也を引き合わせることが出来て。僕は幸せだ、そう今本当に幸せなんだ。小さい僕を抱き上げて泣き崩れる朔也が見える。僕の声はもう届かない、僕の姿ももうその目には映らない。       
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