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そして俺は今、病院のとある一室のベッドの脇にいる。そのベッドには、生命維持装置を付けた倉本が横たわっている。
俺たちのカップルごっこは、突然終わりを迎えた。
あの日家に着いた俺は、テレビのニュースで衝撃を受けた。
「横浜市で女子高生の倉本優香さんが男に刺され意識不明の重体」
テロップを見た瞬間、一瞬それが倉本のことだとは理解できなかった。どうか同姓同名の別人であって欲しいと、倉本の携帯に何度も電話を掛けた。すると何度目かで、40代くらいの女性の声がした。
倉本の母親であった。俺は電話で倉本の母親から事情を聞き、病院の場所を教えてもらうとすぐに向かった。
そして涙を流す彼女の両親から、残酷な現実を聞かされた。
倉本は一命を取り留めたものの、意識が戻らず、医師からは植物状態だと宣告を受けた。一応生命維持装置のおかげで物理的には生き続けることができるが、意識が戻る可能性はほぼ皆無だという。
友達と花火大会に出かけてくると言って浴衣姿で家を出てしばらく歩いていたところ、突然後ろから男に刺され、うずくまったところを何度もめった刺しにされたそうだ。近くを通りかかった人達により警察と救急車が呼ばれ、男もすぐに逮捕されたそうだが。
その男は、倉本と同い年でしかも同じ中学出身だそうだ。多分、いや絶対、そいつは倉本が言っていたストーカー男だろう。
俺はどうすればよかったのだろうか。ストーカー被害が明らかな時点で倉本に通報させるべきだったか、あるいは俺が通報するべきだったか。いや、倉本は多分警察沙汰にさせたくなかっただろうし、今思えば俺自身もカップルごっこを楽しんでいた。だからあの時は2人とも、警察に通報するという選択肢はなかっただろう。
だから、後悔はない。どうしようもなかったから。
ただ、俺は心にぽっかりと穴が開いてしまった。
植物状態の人間でも、実は意識はあるという話を聞いたことがある。意識はあるが全く体が動かせない、金縛りが永遠に続くような状態である。もしそうだとしたら、倉本の苦しみは計り知れない。辛いものに違いない。
「花火綺麗だったよ、優香」
俺は「元カレ」として倉本に最後の別れを告げ、彼女の酸素マスクを外して、病室を後にした、、、。
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