9人が本棚に入れています
本棚に追加
「あなたに飽きちゃったの。だから別れて」
なにかのドラマで観たことがある。
余命半年を宣告された女が、付き合っていた彼氏を振るというやつだ。女は、心から彼のことが好きで、だからこそ、彼のことを振る。新しい彼女を見つけて、家族を築いて、幸せになるように、と。
そういう物語ではたいてい、男が真実に気がついて、最終的には彼女と結婚をする。めいっぱい、めいっぱい幸せになって、残りの命を全うするのだ。
美しい、物語だ。
でも、現実はそんなに美しくない。
「……分かったよ。今まで、ありがとう」
私の言葉を受け止めて、彼は立ち上がる。
コーヒー代は置いておくよ、と彼は千円札をコーヒーカップの下に敷いて、そのままカフェから出て行った。
私は、自分の頼んだブラジルコーヒーを口に運ぶ。苦い。やはり無理をするものではないと思った。
最初のコメントを投稿しよう!