ならば、せめて、穏やかに。

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「あなたに飽きちゃったの。だから別れて」  なにかのドラマで観たことがある。  余命半年を宣告された女が、付き合っていた彼氏を振るというやつだ。女は、心から彼のことが好きで、だからこそ、彼のことを振る。新しい彼女を見つけて、家族を築いて、幸せになるように、と。  そういう物語ではたいてい、男が真実に気がついて、最終的には彼女と結婚をする。めいっぱい、めいっぱい幸せになって、残りの命を全うするのだ。  美しい、物語だ。  でも、現実はそんなに美しくない。 「……分かったよ。今まで、ありがとう」  私の言葉を受け止めて、彼は立ち上がる。  コーヒー代は置いておくよ、と彼は千円札をコーヒーカップの下に敷いて、そのままカフェから出て行った。  私は、自分の頼んだブラジルコーヒーを口に運ぶ。苦い。やはり無理をするものではないと思った。
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