40人が本棚に入れています
本棚に追加
★
どこをどう走ったのか。
気づくと、オレは、「花田市立中学校」と書かれた門柱の前に立っていた。
かたむいてきた日差しを、校庭が一心に受けとめている。
こだまするアブラゼミの声。
夏休み中、ほぼ毎日運動しているサッカー部員たちの姿が、今はない。
「……そうか。誠は試合か……」
荒い息をつきながら、綾も、家で寝ていることを思い出した。
「くそ……」
ひたいに噴き出た汗をぬぐう。にぎったこぶしが、いまだになさけなく震えている。
さっき。浅山で。鬼婆が鵤さんをつれ去った。
人間サイズの妖精になれる、綾の体がほしいと。鵤さんを返してほしければ、かわりに綾をさしだせと。
そんなこと、だれがするかよっ!!
じだんだ踏んでも、鵤さんはもどってこない。
「くそ……どうすればいいんだ……」
恐れていたとおりのことが起きた。
鵤さんが巻き込まれた。
鵤さんは浅山の植物園の管理人だ。オレの亡きとうさんの親友で。オレのこともずっと気にかけてくれた人。
世話になりっぱなしだった。それなのに……。
ハグは、なんのためらいもなく、オレのまわりの人間をコマにする。
「やっぱり……オレがひとりで、なんとかするしかねぇのか……」
「あれ? 葉児ぃ? そんなとこでなにしてんの~?」
背中に、底抜けに明るい声がかかった。
ふり返ると、中学前の歩道を、中学生の集団が歩いてきている。みんな、うちの学校の青いサッカーのユニフォームを着て、スポーツバッグと水筒をかついでいる。
まじって誠が、くりくりの二重の目を見開いて、立ちどまっていた。
最初のコメントを投稿しよう!