4/9
前へ
/123ページ
次へ
「ね、ね? なんの映画観る? ヨウちゃんはいつも、なに観てるの?」 「オレは……とくに好みはないな。テレビでやってる映画とか。たまに話題のやつをレンタルで借りたりとか。映画館に来たのは、三年ぶりくらいだよ」 「え~? めっちゃ久しぶりじゃん~」 「綾は?」 「あたしはね~、ディズニーのプリンセス系が好き~」 「今は、そういうのはやってないな……」  ヨウちゃんは、上映表に目をこらしてる。 「あ。じゃあ、あたし、このファンタジー観たい!」  あたしは映画のタイトルを指さした。ヨーロッパの児童文学が原作の、魔法が出てくるハリウッドもの。最近話題らしくて、テレビでよくCMを見かける。 「オッケ。十時二十分からか。時間的にもちょうどいいな」  あたしたちは恋人つなぎで、チケット売り場の列にならんだ。  二時間半後。  ショッピングモール一階のフードコートで。  あたしはケラケラ、笑い転げてた。 「……綾。いつまで笑ってんだよ?」  向かいの席で、ヨウちゃんはふてくされて、ハンバーガーをほおばっている。 「だって、だってぇ~っ!!  映画観てるときの、ヨウちゃんのリアクションっ!」  ヨウちゃんの怖がりが発動するのは、お化け屋敷だけじゃなかったみたい。  子ども向けのファンタジーだから、本気で怖いようなホラー要素はないんだけど。アクションシーンも入ってるから、たまにびっくりさせるような演出をしてくる。  フェイントをかけて、岩が飛んできたり。頭の上からとつぜん、ゴーストがあらわれたり。  そのたんびに、ヨウちゃんてば、ビックビク。ドラゴンが火を噴いて、主人公に襲いかかったときなんて、「ひっ!」って、イスから腰を落としそうになってた。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加