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「こんなビビリじゃ、はずかしくて映画館になんか来れないよね~。とくに、人といっしょじゃ! いつもクール気取ってる、『中条君』だもんね~っ!! 」
「あ~も~、綾、うるっさいっ!! 」
ヨウちゃんの口が近づいてきて、あたしの手の中のアップルパイをパリッとかじった。
「あっ!! 取ったぁ!」
食べかけてたんだけど。
でもヨウちゃんはすずしい顔で、口をもぐもぐ。しょうがないから、あたしもまた、のこりのパイにかじりつく。
「っていうか、ヨウちゃんの怖がりって、治ったわけじゃなかったんだね。ハグとふつうに戦ってるから、あたし、とっくに治ったと思ってたよ」
「そういうときは、ヤロウとネトルのサシェを持ち歩いてるからな。妖精がからんでなかったら、あのお守りは効かないだろ」
あたしはパイから顔をあげて、ヨウちゃんを見た。
湯気の立つコーヒーを口に運んでいる。
そっか……ヨウちゃん、あたしがあげたお守り、持ち歩いてくれてるんだ……。
「んふふ」
ふくみ笑いしたら、ヨウちゃんに気づかれた。
「……なんだよ?」
「ん~ん」
「……綾。ありがとな……」
「……え?」
まぶたを閉じたヨウちゃんの顔が、コーヒーの湯気の向こうにぼやけた。
「今さら、こんなとこで、こんなこと言うのもなんだけど……。あのとき、オレを助けてくれて、ありがとう……」
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