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小学生のころは、男子で一番低かった誠の身長も、今では、オレと、こぶしひとつぶんしか、ちがわない。
日に焼けた細長い手足に、横に広がる大きな耳。ニカっと横に開く口は、自分の感情を表に出すことに、なんの戸惑いもないように見える。
オレは口を開き、でもすぐにまた、口を閉じた。
言えない……。
誠に助けを求めたら、誠まで巻き込まれる……。
「葉児っ! もしかして、なんかあったっ!? 」
ギクッとした。
誠は勘がいい。
「……いや。なんも」
「じゃあ、なんでケガしてんだよっ!」
「べつに。ただコケただけだよ」
オレは、右ほおをぬぐって、傷を誠から隠した。
ハグの杖がほおをかすめた。その杖の先についた妖精の羽に、カミソリのように切られた。
「葉児、今さら隠すな! 話せっ!」
「お~い、誠! なにめずらしく熱くなってんだよっ !? てか、葉児も。夏休み中なのに、帰宅部がなんで、学校に来てるわけ?」
サッカー部一行の中から、興味津々でのりだして来たのは、オレたちと同じ一年の大岩だ。
「水沢~、大岩~。ミーティングするから、校庭集合だぞ~」
先に校門に入っていく先輩たちが、誠たちをふり返っている。
「今、行きますっ! 葉児。オレはいったん行くけど、部活が終わったらまた、ここにもどってくるかんなっ! 逃げんなよっ!! 」
誠が、全身の力を込めて、にらんできた。
ずっとチビっ子で。おちゃらけてばかりだった誠から、今はすごみを感じる。
これは……逃げれねぇな。
鎖でつながれた犬の気分で、おとなしく校門前に立っていると、部活を終えた誠が、「あれ? ホントに待ってた」とやってきた。
「おまえな。人が待っててやったのに。なんだよ、その言いぐさ」
誠は「なはは」と笑った。
「だって、めずらし~じゃん。葉児が素直にオレの言うこときくなんて。――で。どうしたわけ?」
声を低くした誠の顔からは、すでに笑みが消えている。
「ほかにきかれたい話じゃない。歩きながら話すぞ」
オレは制服ズボンのポケットに両手をつっ込んで、住宅街へ歩きだした。
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