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「も~、神戸界隈は『コブシ☆ヒットパレード!』入らないよ~」
ラジオの電波が入らず、ややご機嫌ななめな鈴。
今日は、自社から2台口の仕事だ。
1台では荷物が積みきれなかったので、残りは後から鈴の車に載せた。先に積んだ1台は、満子の大型車だった。
朝、満子から、車庫から出る前に『道、ややこしいからあたしのケツについて来な』と、言われ、鈴は必至について行く。
(うわぁ、満子先輩早いよー。トラックも多いし見失わないようにっと……)
どこの運送会社も似たようなもので、朝のこの時間帯は一番混む。鈴は、万が一満子号を見失ってもいいようにナンバープレートに注視していた。
「325325325325……いた!」
幸い、信号が赤になり、満子号の左後方に停まった。
(ふぃ~、なんとか追いついた)
が、満子号の様子がおかしい。助手席のドアが少し開いては閉まるを繰り返している。
(ん?満子先輩もしかしてドアちゃんと閉めてない!?知らせなきゃ)
異変に気付いた鈴は満子にTELを入れる。
「満子先輩!助手席のドア!開いてますよ!」
「なに?助手席の?・・・あ~、わかったよ」
(なんだろ?満子先輩怒ってる?)
声のトーンから、少し機嫌が悪い様子だった。
(ははぁ~ん、さては満子先輩も『コブシ☆ヒットパレード!』聴けなくてイライラしてるんだな。そかそか)
信号は青になり、辺りの車が一斉に動き出した。
2台の位置はそのままで再び赤信号で停車した。
鈴が、ふと右前方を見るとまた助手席のドアが開閉している。
(あれ?ドア壊れてるのかな?満子先輩気付いてない?)
すぐさま満子にTELを入れる。TELLLLL…P!
「あ、もしもしミ!?」
「ぅっせー!!そんな事はわかってんだよ!!さっさと消えな!おま……」
「す、すみません!!」ガチャ★
TELが切れると同時だった。
突然、満子号の助手席のドアが開き、3段ステップの上から男が勢いよく転げ出た。そして、男は慌ててその場を走り去った。
「お前なんか……二度と現れるな!!!」
満子は走り去る男に吐き捨てた。
鈴は満子の口調に、一瞬放心状態になった。しかし、辺りの車が動き出すと我に返った。そして大粒の涙があふれ出てハンドルを握る手を濡らした。手は小刻みに震えていた。
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