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「お疲れ様でーす!」
学園祭翌日。宵積みを終えて社に戻ってきた鈴は、車庫でキャッチボールをしていた太と白鳥に挨拶を交わした。
「おう、お疲れ様。昨日は凄かったろ?ライブ会場の前方は、ほぼ俺たち『沢桔梗親衛隊』で固めたからな」
「あれはやっぱり太さんが!食い付きが半端なかったですもん!」
「まぁな。ところであの演出、アイアイはホンマに怪我してただろ?他は騙せても俺は騙せない……そうだろ?」
散々私の歌と踊りの練習を観てたのだから、当日違うことしてたら誰だって怪しむだろう。口にはしなかったが、そう言いた気な呆れ顔をみせた。
「で、どうでした?」
「う~ん、あれはあれでいいけど2回目は無しかな。やっぱり歌って踊ってくれないとこちらも盛り上げられないからなあ。だろ?白鳥」
「そうなのか?俺はちょっと分からん。今のアイドルってなんか難しいな」
「育てるんだよ!俺が、俺たちがアイドルを!」
次第に熱くなる太はこの後しばらく自論のアイドル像を展開させた。
「……わかるか?つまり、今はレベル0を演じれる子がウケるわけ!いきなり最強魔法やら装備されたら近寄れないんだな」
太の長話にうんざりしながらも、勢いにのまれ、白鳥と鈴は頷いた。
「じゃあ、三条三女もあれでいいんじゃないですか?みんなの応援で私たちを癒して下さいね……って言ってましたよ?」
「ああいう変化球は直球があるからこそなんだよ。目が慣れたら打つのも簡単だろ?ま、一発屋の手法だな。このままなら、飽きられるのも多分早い」
野球で例える太に納得の表情をみせる白鳥だった。
対して鈴は、納得がいかない様子で首を傾げた。
「あんなに頑張ったのに……」
「プロってそういう世界なんだよな。特に芸能界は。結果、受けなければ意味がない世界なんだ。本人達もそれを分かってやってるはず」
正論を言う太に、昨日の熱気は一時的なものなのか。あの客の反応はなんだったのか。鈴は、分かってはいるが悔しさをその握りこぶしに表した。
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