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桜も散り、気付けば新緑の季節へと変わり始めていた。その日はいつもより暑く、少し汗ばむくらいの陽気だった。
「今日は暑いな。早く納品先に入りたいな」
フトシは今、冷凍食品を運んでいる。京都から大阪南港の冷凍倉庫へ納品するのだ。冷凍倉庫と言うくらいだから当然、寒い。が、この男には丁度良い環境のようだ。手積み手下ろしだったが、同じ手仕事ならこっちがいいとの事で引き受けたのだった。しかし、それだけが理由ではないのである。
「今日は文目氏とランチだ!」
そう、文目もここ暫く南港に出入りしているのだ。2人は時間を合わせてランチタイムを満喫していた。フトシが快く引き受けたのもうなずける。
文目と会える日は、俄然仕事にも気合が入り、見る見るうちにトラックの荷台から荷物が無くなっていった。
「お疲れ様フトシ君!気合い入ってるやん!あ、彼女と昼飯やな?はよ行ったり〜」
「ちょっ!彼女って……。ま、まぁ、じゃあこれで失礼します」
フトシは額に脂汗をにじませ慌てて現場を後にした。
「彼女って……フフッ」
さっき言われた言葉を脳内で反芻し、フトシは顔面を緩々に崩壊させながらいつもの待ち合わせ場所へ向かった。
そして、事は起きた。
フトシが待ち合わせ場所へ向かう途中、明らかにおかしな動きをする一台のトレーラーがいた。どうやら通りからバックで入庫したいらしいが、なかなか上手くいかない様子。
「最近増えたよな、トレーラー乗り出す人。まだ乗り出して間もない感じだな」
そこまではフトシもよくある光景だと気に留めるほどではなかったが、それがよく目にするトレーラーヘッドだった。
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