29(承前)

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 秋はしだいに深まり、不二演習場に広がるススキ野原は銀色に輝きだした。不二山の頂(いただき)は早くも降雪して、純白の冠をかぶせたようだ。  タツオは翌日の訓練と筆記試験にそなえ、早めに就寝していた。ベッドの枕元においた軍支給の情報端末が暗闇に鳴る。寝ぼけたまま手にとり、時間と相手を確かめた。時刻は2時40分、着信相手は兄の逆島継雄少佐だ。 「はい、逆島少尉です」 「ああ、おれだ、継雄だ。今すぐ、作戦部のイ会議室にきてくれないか」  すっきりと目覚めた声だった。兄はまだ眠らずに仕事をしていたのだろう。イ会議室は6部屋ある作戦部の会議室でもっとも広く、重要な会議に使用される部屋だった。 「わかりました、5分でうかがいます」  ベッドから跳ね起きて軍服を身につけた。軍用ブーツをはき、髪をなでつける。短時間で身なりを整えるのは養成高校の頃から慣れていた。深夜の通路を速足で会議室に急ぐ。こんな時間にどれほどの急用があるのだろうか。
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