29(承前)

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「通信文から推測すると、ほぼ100パーセントの確率で『須佐乃男』搭乗員のなかに敵のスパイがまぎれこんでいる」  今度はがまんできなかった。 「そんなはずはないです」  東島進駐官養成高校入学から一年半、みな厳しい訓練と幾多の戦闘を潜り抜けてきた仲間たちだった。タツオはそこでようやく理解した。だから自分ひとりにこのスパイ情報を伝達したのか。深夜のこの時間ならば、他の候補生にしられることもない。全員にスパイ情報が流れれば候補者のあいだに動揺が走るし、なによりスパイに逃走されてしまうか、あるいは自暴自棄に追いこみ破壊活動に走るかもしれない。 けれど搭乗員の候補生は20名以上存在する。もしかしたら、1名くらいは敵スパイがいるのかもしれない。タツオは軽く頭をさげた。 「失礼しました。とり乱しました。ですが敵のスパイは1名だけなんですよね」  逆島少佐がしぶしぶうなずいた。視線だけでそれ以上口を開くなと伝えてくる。だが、タツオは青春の40年をたった1日の本土防衛戦にかける搭乗員の名誉のためにいっておきたかった。 「それなら、なんとか事態をコントロールできるのではないでしょうか。なによりうちの菱川班にはスパイがいるはずはないですから」
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