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森永中将が深刻な顔でひげの先をつまみながらいった。
「だと、いいのだがな。逆島少佐」
視線だけで兄に説明するように命令した。兄の顔が急に無表情になった。この顔には見覚えがある。子どものころから兄・継雄は、飛んでもないいたずらをしたあとは、父のまえではこの顔をしていた。家一軒も買えるという氾わたりの青磁の壺を割ったときの顔である。
「残念だ、逆島少尉。そのスパイについていた修飾語は『トップチームの』だった。敵はすでに『須佐乃男』搭乗員チームの成績順をしっている。やつらはトップチームにSを送りこめて大成功だと暗号文でよろこんでいるのだ」
タツオの目のまえが真っ暗になった。7名しかいない菱川班のなかに、敵のスパイがいる。
テル、クニ、ジャクヤ、タツオキ、サイコ、マルミ。このなかにスパイが存在するのだ。衝撃が身体を駆け抜けたあとも、余韻で全身がしびれたままだった。タツオは叫ぶようにいった。
「では、菱川班を『須佐乃男』作戦からはずしてください」
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