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君は時々嘘をつく
揃いの作業用ジャンパーにズボン、マスク、帽子をきちんと着用した姿の男たち。そしてその三人の中で、大きな鞄を持ってデジタルカメラをぶら下げている一人が、玄関のインターホンを押した。
すると、顔面蒼白の家人の女性が姿を現す。
「お邪魔します」
なるべく低く、静かな声で。人の家庭を訪問するにあたり、これ程までに暗いトーンで挨拶をするのは、家人の心情を慮ってのことである。
「……こちらの部屋です」
案内されたそこは、どうやら寝室のようである。六畳の和室で、押し入れなどはあるが、ほとんど家具はない。整然とした部屋だ。
窓際にはシングルベッド。
そこには、一人の男性が眠るように横たえていた。穏やかな、揺すれば起きそうにも見える表情をしている。
掛け布団は剥ぎ取られ、畳の上に落ちている。男性の胸元は、パジャマのボタンが開けられ肌が露出していた。
「ご主人ですね?」
「……はい」
震えた声で、家人の女性は答えた。
「ご主人は、昨夜こちらでお休みになられたんですね?」
「はい……それで、いつも朝食に起きてくる時間に起きてこなかったのでおかしいなって……そしたら……」
女性は肩も震わせて、何とか声を絞り出していた。
「……奥さん。おつらいでしょうが、教えてください。それは何時頃ですか?」
「8時頃です。いつもなら7時には起きてくるので、おかしいなと……」
「それで、まずは救急車を呼んだんですね」
「はい……」
「心臓マッサージか何か指示されましたか?」
「はい……119番で言われたとおりに」
「救急隊が来て、ご主人を見たんですね。それで、搬送はされなかった」
「うぅぅ……はい……もう死んでいると……あとは警察だからとすぐに帰ってしまって……」
少し悔しそうに、女性は言葉を繋ぐ。
既に硬直していたのだろう。そういった場合、救急隊は病院に搬送せずに警察を呼んで帰ってしまう。非情に思えるかもしれないが、人命救助が優先である以上、それは救急隊を責められない。
「わかりました。
それでは奥さん、これから検視に入りますので、向こうの部屋でお話を聞かせてください」
一人が女性に退出を促し、一緒に出て行った。
それを合図に、襖を閉めて、検視が始まる。
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