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「服、脱がすぞ。メモとって」
「はい」
薄手のゴム手袋をはめた結城は、ご遺体のパジャマに手を掛けた。
「上、青色パジャマ。下、青色パジャマズボン……」
それを聞きながら、柏倉がペンを動かす。結城は柏倉のメモのペースを見ながら次々と服を脱がせ、裸にした。
「着衣、終わり。次は硬直。上から行くぞ」
そして、結城はおもむろに両手で遺体の頭を掴み、首を動かした。
「頚部、強く出てる。……顎も硬い」
結城はどんどん遺体の部位の硬直を確認していった。それを柏倉が全てメモする。
結城たちの確認は、硬直だけでは終わらない。身体の痣や傷、手術の痕までメモする。
「右腹部に10センチの手術痕。盲腸かな?後で既往症を確認する」
とにかく細かく、一つ一つ確認していく。既往症があれば、それが死因に繋がる可能性もあるため、家族に聴取する。挙げ句の果てには、通院歴やお薬手帳まで調べる。
遺体の全てを確認し終えると、結城は電話で検視のための医者を呼んだ。警察が遺体を確認した後は、医者が採血や採尿などをし、様々な検査をする。
「……あとは貴重品」
「奥さんに言ってきます」
貴重品とは、故人の所有する貴重品のことである。検視には、貴重品探しも不可欠になる。財布などがなくなっていれば、物盗りによる他殺の可能性も浮上するからだ。
このあたりが検視の嫌なところだ。
家捜しをする。故人の財布や貴重品を探して、中身まで調べることになる。
その上、家族には故人が生命保険に加入しているか、などと言った失礼極まりない質問もしなくてはならない。もちろん、疑われているのかと怒りだす人もいる。それでも、懇切丁寧に説明して理解してもらう。嫌でも必ずやらなくてはいけない。
全ては、犯罪を見逃さないために。
結城は、そういった故人の家族の傷をえぐるような行為に辟易しながらも、淡々とこなしていた。
これは仕方がない。やらなくてはいけないこと。故人のためなのだ。
そう、自分を奮い立たせて。
そのうち、交番の応援が来て、医者も到着した。
検視は粛々と、私語もなく進んでいく。
結城たちは女性から話を聞き終えた井上と合流し、医者と一緒に遺体を確認して各種検査を行った。
検査結果が出て、結城たちは医者と協議しながら死因を特定した。
“心筋梗塞”
これが、このシングルベッドで一人亡くなった男性の死因だった。
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