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待ち合わせは家の近くだ。高速の降り口すぐの喫茶店。最近の私達のデートは、毎回ここだ。そう、隆弘が実家に帰ってから。
「東京の大学で会ったのに、実家の稼業を継ぐって帰っちゃって。まだ半年だけど……寂しいじゃない」
私の小言は消えていく。
稼業を継ぐのは悪くないし、実家に帰るのだって、悪いことだとは思ってはいない。単に遠距離が辛くなってきただけ。
喫茶店にはすぐに着いた。一度店を通り越して駐車場を見る。
「車は……なしか。ま、そうよね」
まだ着ていないのは残念だけど、はやく着き過ぎたから当然のこと。店の中で待っていれば、いいだけ。
喫茶店の扉を引くと、特有の音が鳴る。
カラン
「いらっしゃいませ」
私は軽く頭を下げる。
「おひとり様ですか?」
「いえ……えと、待ち合わせで」
一時間は待つかもしれない、そう思うと私の声は小さくなった。
「どうぞ」
私の様子を払拭するように、やさしく笑う。接客業なら当たり前かもしれないけれど、彼女の笑顔は私を安堵させた。
窓を眺めて、私は待った。水とメニューが出されてからどの位の時間が過ぎて行っただろう? 頼んだコーヒーもすっかり飲み終えてしまった。
今、どの辺り?
運転中なら返事は来ない。分かっていても、私は二回目のメールを送った。
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