1人が本棚に入れています
本棚に追加
美味しかった。こんなにゆっくり食べたのは初めてだった。待ちながら、ゆっくりと食べたのに……高くに上がっていた日は、姿を隠し始めている。
ふと、鳴りもしないスマホを見る。
手に取って見ても、なにもない。着信も、メールも、なにも。
待っている間、寂しさと怒りが募っていたけど、もう諦めに近くなってきた。この時間になっても連絡ひとつももらえないなんて。
メニューが夜のメニューに変えられた。
顔を上げると、例の店員さんだ。ああ、可愛らしい笑顔。私も、こんな女性だったなら……。
彼女はレジにいた店長らしい男性に声をかけると姿を消した。そっか、勤務時間が終わるんだ。淋しいけど、最後まで笑顔の対応をしてくれたことに、ありがとうと心の中で言う。私の心は、あの店員さんのお蔭で、何度も救われた気がしていた。
頼んでいたパスタは、店長らしき男性が届けてくれた。
ありがとう。
きっと、店長さんは、私みたいな客がたまにいると知っている。
パスタは何てことのないナポリタンなのに、私は初めて食べるパスタに感動しているかのように、何度も涙を堪えた。
気持ちが落ち着いたころ、静かに席を立った。
会計が終わり、、
「ありがとうございました」
と、店長らしき男性はすてきな笑顔で私を送ってくれた。──ありがとう、は私の方。
「ありがとうございました」
カラン
最初のコメントを投稿しよう!