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喫茶店を出て、何気なく駐車場を見る。
──馬鹿だな、私。
隆弘の車がないことくらい、わかってるはずなのに。
帰り道。私は泣いていた。私は振られたんだ。何も連絡がないままに。無言で。
ずっと楽しみにしていたのに。
馬鹿だ。半日も待つなんて。馬鹿だ、バカ、バカ、隆弘の大バカ。
「ただいま」
暗い部屋の電気をつける。ワンルームの寂しい一人暮らしの部屋。入ってすぐに、パソコンに電源を入れる。
『ただいま』
何か、聞こえたような。
まだパソコンの画面は真っ黒。ただ、それが鏡みたいに私を映して……。
「ただいま」
低い、男の声――隆弘の声。
声は左の耳元で聞こえていて。正面のパソコンの画面には、私と……私の後ろに。うしろから抱く、隆弘の姿も映っていた。
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