私は雨が大好きです

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「前から気になっていたんですけど」 助手席の女が口を開く。 そこにはセリフの割に重さはなく、必要最低限の会話が終わった後の沈黙に包まれた車内に耐えきれなくなったようだった。 「先輩の車の後部座席に乗ってる、子どもの傘、あれ、誰のです?」 少し声が大きいのは、今日が土砂降りだからだ。 こいつはいつもそうだが。 「誰のだと思う?」 質問で返すななどと喚くやつもいるが、自分の周りにそんな人間はいなかった。 元々、ちょっとしたことでも考え込んだり疑ったりするのが大好きな人間なのだ。 「先輩は独身貴族。考えられるのは親戚の子の忘れ物でしょうけど、仕事柄そんなことはしませんよね。でも、その割には色あせが気になるんですよ...」 ピンク色の子ども用雨傘には、レース柄が描かれている。 年の離れたこの女でも知っているようなキャラクターものらしいが、あいにく自分は知らなかった。 「そうだよ、俺ンだよ」 「はあっ!?」 「...とりあえず、『そんなシュミしてたんですか?』みたいな顔ヤメろ。どっちかっつーと、母親のシュミだ」 「息子にこんな傘買い与えてたんですか」 「幼い頃はよく女の子に間違えられてたから、おもしろ半分で持たされてたんだよ」 小学校に上がって黒のランドセルを背負って歩いていたら、目を丸くして驚かれたな。 そういえば。 「ああ...なるほど」 先輩、女顔ですもんね。 言われる前に、牽制しておく。 しかし、女はぴくりともせず、うんざりした表情で言う。 「今年度は特にヘタなヤツが先走って大目玉食らってるんですから、始末書じゃ済まないかもしれませんよ」 「...俺がその『ヘタなヤツ』だと思うか」 「知りませんよ。私、先輩が撃ってるの見たことありませんから」 エンジンもかけていない車は、ワイパーを動かすことさえかなわない。 この天気は目立たなくていいが、なんせ見通しが悪すぎる。 「ああ、もう、なんでこんな雨の日なんでしょうね」 まとまらない髪より、水流になっているフロントガラスに舌打ちをした。 「先に決まったのは日付なんだから、仕方ねえだろう?」 時計を見る。 話し込んだ割に時間は経っていなかったようだ。 「どうせ世の中は『洗濯物が乾かない』だの『外で遊べない』だの嘆くんでしょうけど」 どんだけ平和ボケしてんだっての
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