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 由緒正しき家柄にΩが生まれ、それが当主であったとすれば親族会議どころではなくなる。  政財界を巻き込むセンセーショナルとなり、今現在、野宮グループの企業を動かしている駈にも多大な迷惑が掛かってしまう。  グルグルと巡る悪い考えは増幅し、体をより気怠くさせていく。  黒い瞳を妖しく光らせた晴也は鼻息荒く輝流の首筋に執拗にキスを迫ってくる。彼が首筋を狙うのは、Ωは自身の首筋を噛まれることでその相手と番う運命を持っているから。所有物であるという証にも似たそれは生涯消えることはないという。  αとΩのカップリングでは『運命の番』という者が存在して、互いに想いが通じ、認め合うことで番うという事もある。しかし、それはごくごく稀なケースであり、その相手に出会う前に発情した相手に犯されたり、意図しない妊娠を強いられる場合がほとんどだ。  しかもα性を持つ相手が地位や権力を持つ者であれば、Ωを逆に訴えることもあるのだ。  つまり、逆レ|イプされたと告訴すれば、ほぼ90%以上の確率で原告側が勝訴する。裁判に負けたΩは生き延びるために罪を認め理不尽で膨大な慰謝料を払い続けるか、はたまた矛盾だらけの世の中に無言の訴えとして自らの命を断つか……だ。  輝流の背筋に冷たいものが流れ始める。  このままでは、自分は一生このクズ男に飼い殺されてしまうと思った。  それだけは絶対に回避したい。必死に拒みながら暴れてみるが、手首を掴まれたままで、しかも体格差のある晴也には敵うはずもなかった。 「毎回、邪魔ばかりされてきたが、前々から狙ってたんだよ。ガキに手を出す趣味はなかったけど、お前だけは特別だった。男のくせに色っぽくて、やけにそそる体をしてやがる。それに……お前と結婚すればあの家の全ては俺のモノになるって気づいたんだよ。あんなどこの骨とも分からないクソ執事にくれてやってなるものかっ」  晴也の息が首筋に掛かる。それが嫌で堪らないというのに、体の熱は先程よりも上がり、なぜか下肢が兆し始めている。  生理的に受け付けない男に欲情するなんてことは、性に疎い輝流でも一度もなかった。  これが本当に発情期だったとしたら……。輝流は自身の体を呪った。 「い……やだっ」
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