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「あと二十分ほどで到着すると思います。私たちが入ったら邸内のセキュリティを最高レベルに上げて下さい。誰も邸に近づけないように。あと……取り次ぎも一切断っていただけますか?」 『了解した。――輝流さまのご様子は?』 「手持ちの抑制剤を服用させますが、そう長く抑えておくことは出来ないでしょう。すでに発情期を迎えてしまいましたから……。父上、この事は他の使用人には他言無用でお願いします」 『そんなことはお前に言われなくても分かっている。駈……お前は大丈夫なのか?』 「――いいえ。正直なところ、彼の発する甘い匂いで気が狂いそうですよ。私の方がそう長くは持たないでしょう……」 『運命が……動き出すぞ』 「ええ。待ち望んでいた時がやっと来たんです。興奮してこの場で滅茶苦茶にしてしまいそうですよ」  冗談交じりにおどけて言った駈ではあったが、それが彼の本心であったことは言うまでもない。  電話の向こう側では章太郎が小さく吐息し、その後で実に落ち着いた声音で言った。 『絶対に他人に知られてはならない事ゆえ、邸まで我慢しなさい。ただ……彼にすべてを明かす時が来たことだけは忘れないで欲しい』 「分かっています。これまで彼の人生を狂わせてきたのは私のワガママ――いや、両親のワガママですからね。責任はきちんととる所存です」  駈は苦しそうに呼吸を繰り返す輝流の髪を梳きながら通話を終了させた。  スマートフォンをポケットに仕舞った時、輝流が顎を上向けて唇を震わせた。 「駈……。まだ……なの?」  微かに声を上げた輝流の口元に耳を寄せ、柔らかな髪を撫でてやる。  普段は強気な高校生であるが、今は熱にうかされ、うわ言のように駈の名を呼ぶ幼子だ。 「もう少し我慢出来ますか?」 「はぁ……はぁ……く、るしぃ……よ」 「輝流さま……」  駈は運転席と後部座席のスモークガラスに目を向け、運転手からルームミラー越しに見えないように、輝流の頭を抱きかかえるように腕で囲った。手探りでポケットの中から取り出した錠剤を自らの口に含むと、戦慄く彼の薄い唇に重ねた。
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