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「むふ……っ」  今まで誰にも触れさせたことのないその唇を貪るように何度も啄み、隙間から舌を差し込んで、逃げる彼の舌を絡めとると深く愛撫する。  唇の端から溢れる唾液さえも愛おしい。  それを水音をたてないように啜り、輝流の小さな喘ぎ声と一緒に呑み込んだ。 (輝流さま……)  錠剤を呑み込んだことを確認し、唇をそっと離していく。抑制剤の中でも即効性のある錠剤ではあるが、突発的な症状を抑えるだけのもので長時間は持たない。  駈には輝流の体調の変化の理由が分かっていた。  彼の放つ甘い花の匂いは間違いなくΩが発するオスを引き寄せるフェロモンであり、息も絶え絶えに発熱している体はまさしく発情期が訪れたものだ。  αである輝流がなぜ発情するのか……。それを知る者は輝流の両親と駈、そして駈の両親だけだ。  輝流の甘い唾液に触発されたのか、彼を乗せている膝の間に先程から感じている違和感――それは駈のペ二スが反応している証拠だった。  名残惜しそうに唇を離したのちも何度も生唾を呑み込み、疼く歯茎に歯を食いしばりながらも、輝流を撫でる手はどこまでも優しく優雅だった。  見るからに苦し気な制服のネクタイを緩め、ワイシャツのボタンを外すと白い首筋が露わになり、そこからむせ返るような甘い匂いが広がった。  運転手がその匂いに気付き一瞬眉を顰めたが、駈は「香水に酔ったのかもしれませんね」と彼を牽制しつつ邸へと急がせた。  野宮邸の門を抜け、玄関前の車寄せに車が停車するなり、駈は眠ったままの輝流を横抱きにしたまま降り、開かれた扉の中へ駆け込んだ。
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