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 この世界には、そういった稀有な血を絶やさないようにと位置付けられた男女とは別の性がある。  狼族の血を最も濃く引き、頭脳も身体能力にも優れたα、ごくごく一般的でもっとも人口の多いβ、そして……男でも子を成すことが出来、地位が最も低いΩだ。  稀有な血を残すためにはα同士の結婚が最適とされ、生まれてくる子はもちろんαとなる。  輝流はその典型的なカップリングから生まれたαだ。だが、稀にΩの発情期に誘われたαが体を繋げてしまう事がある。そのために、Ωは国から支給される抑制剤の服用を義務付けられ、安易にαに近づかない措置を施されている。輝流が通う私立高校もまたα以外の者の入学は認められてない。  執事である駈も野宮家に代々仕えてきた執事の家系にあり、αであることは証明されている。  彼の父親であり、先代の執事長――現、家令である日野(ひの)章太郎(しょうたろう)は、実業家として家を空けることの多い駈に変わって、野宮家の留守を預かっている。  Ωを一切排除した家庭で育った輝流は、彼らの発情期を知らない。 「――輝流さま。何度も言いますが、学校の敷地外へは絶対に出てはいけませんよ」 「分かってるって! もう……それは耳にタコが出来るほど聞いてるからっ!――あ、そろそろ着くね」  緑も多い閑静な場所に佇むのは、広大な敷地に建てられた洋館風の校舎。外観はあえてレトロな装飾を施していながらも、内部は開放的で実用性のある近代的な造りとなっている。  各界のセレブがこぞって入学を希望するこの学校は幼稚園から大学まであり、偏差値も高い。  成績はいつも上位にランクする輝流は、自分の学習スタイルに合っているとかなり気に入っていた。  木々の生い茂る豪奢な正門を潜り、生徒の送迎用の車寄せに横づけた車から降りた輝流は、窓を開けた駈に手を振った。 「お仕事、頑張ってね!」 「輝流さまも……。お気をつけて」  優雅に頭を下げた駈は運転手に声をかけると、車は滑るように発進した。  それを見送った輝流はクラスメイトに声をかけ、じゃれ合うようにして教室へと向かった。
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