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 それに、彼がだらしがないのは金だけではなかった。女性に飽き足らず男性にも手を出し、今は数人の『ペット』と呼ばれる若い青年を囲っているようだ。彼らを怪しげな店で働かせて金を集め、自身は賭け事に勤しむ。彼らを繋げておく術は毎晩のセッ|クスというのだから聞いて呆れる。  手癖の悪い男は、甥である輝流にまで及んだ。隼刀や駈が目を離した隙に輝流を部屋に連れ込み、淫行をはたらこうとしたことが何度かあったが、その度に早々に気付いた使用人や駈に助けられ事なきを得た。  最近では、現当主である輝流を何とか籠絡させ、自分のモノにしようと企んでいる。  輝流は、壁に体を預けながら彼の様子を窺っていたが、とにかく駈と合流することが先決だと判断し、鉛のように固まった足を前に踏み出した。  顔を見ただけであからさまな拒絶反応を起こす。それは以前、彼に触れられた体がザワザワとその感触を思い出してしまうからだ。  晴也に悟られないように出来るだけ平静を装うが、我慢すればするほど息は荒くなり胸が苦しくなっていく。 「おぉ、輝流じゃないか。久しぶりだな!――おや、顔色が悪いな。どうしたんだ?」  まるで裏口に輝流が来るのを待ち伏せていたかのように、白々しく驚きの声をあげた。  相手を気遣う言葉も、彼の冷酷な表情から察すれば薄っぺらいものだとすぐに分かる。 「叔父様こそ、なぜ……ここに?」  なるべく目を合わさないように俯き加減のまま、挨拶も交わすことなく抑揚のない声で応答する。  輝流は自身を抱きしめるようにして、二の腕をグッと掴むと体の中から発する熱を抑え込もうとした。 「この学園のOBが寄付を申請に来ちゃ悪いか?」 「寄付?――貴方にそんな余裕はないと聞いていますが」  幼い頃から晴也に対して突き放した物言いをする輝流。それが今回も癪に障ったのか、小さく舌打ちをして眉を顰めた。  私立の名門校と言われるこの学校のOBであることは、いろいろな意味で強みにはなる。しかし、成績も素行も悪かった晴也が高等部を卒業出来たのは、輝流の祖父が裏から根回しをしたからだ。隼人と叔父の言い争いの最中で飛び交った内容ではあるが、輝流は聞くともなく聞いてしまっていた。
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