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「ったく、口の減らないガキだな……。ガキならガキらしくしろ」 「あなたの言うガキの定義を聞いてみたいものですね」 「なにっ! そんなに聞きたきゃ、しっかり教えてやるよ。お前はな、ケツ穴に俺のチ〇コ突っ込まれて、アンアン啼いてりゃいいんだよっ。その目……人を見下すような目をしやがって。兄貴とそっくりだ!」  晴也は長身でがっしりとした体格で、スーツを着ている姿は一見極道かと見紛うほど迫力がある。そんな男から見下ろされ、声を張り上げられたら誰もが慄くだろう。しかし、輝流は逆に上目遣いで睨み返すと、フンッと鼻で笑った。  女性的で繊細な表情をする反面、元来の強気で負けず嫌いな性格は父親である隼刀譲りだ。  売られた喧嘩は必ず買う。特に弱いくせにさらに弱いものを痛めつけるような輩には黙ってはいられなかった。  それで損をした事は数えきれないほどあったが、逆にその時に築かれた信頼関係は時間が経っても深く繋がっている。 (こんな体調じゃなければ……)  コンディションはこの上なく最悪で、今の輝流には勝算はなかった。  体内で渦を巻くように暴れる熱が、また大きくなっていく。  二の腕を掴んだ指先は力を入れていたせいで血の気を失い、白くなっていた。  相手の弱点を何とか見つけようとしていた晴也は、次第に輝流の様子がおかしいことに気付き始めた。  華奢な体がフラフラと揺れていたのだ。その体を支えようと晴也が手を伸ばした時、彼は不意に動きを止めて険しい表情を浮かべた。 「――お前。なんだ……この匂いは」  露骨に顔を顰め、なおも輝流との距離を縮めてくる。 「匂い?」 「甘ったるい花の匂い……。そうだな、まるでΩが発情期に出すフェロモンに似てる」 「え……?」  驚いた輝流が自分の袖口を顔に近づけた時、晴也の大きな手が輝流の細い手首を掴み、力任せに引き寄せた。 「離せっ!」  罠だったのかと悔しさに奥歯を噛んだが、晴也には先程までの険しい表情はなく、まるで花に吸い寄せられた昆虫のようにうっとりと目を細めながら息を荒らげていた。
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