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「はぁ、はぁ……。なぜお前からこの匂いがする? αであるお前から……」
「何のことっ? 叔父様、離してっ!」
もがいてみるが、掴まれた手を振りほどくことが出来ない。輝流が動くたびに晴也の表情は妖しく緩み、仕舞いには下品にも舌舐りをし始めたではないか。
「いい匂いだ……。この状況でこの香りを発するとは、俺を誘っているようにしか思えないな。どうだ? 野宮の跡取りを俺と作るってのは……。α同士で交わればαが生まれる。野宮の血も絶えることはなくなる……。俺だってその血を継いでいるんだ」
「やだ……っ」
晴也を翻弄する甘い匂い。それは輝流には理解出来なかった。
自身の衣服はもちろんだが、体から発せられるものであればすぐに気付くはずだ。しかし、輝流には全くその匂いが感じられなかったのである。
嗅覚は決して鈍い方ではない。むしろ、敏感な方だと言ってもいい。
そんな輝流が気付かない匂いがあるのかと不思議に思っていた。しかもそれが、Ωが発情した時に発するフェロモンの匂いと言われれば、さすがの輝流も動揺を隠せなかった。
この歳まで毎年のように血液検査をし、間違いなくα性であることは確認済みだったからだ。
Ωはある年齢に達すると突然発症し、数ヶ月に一度というペースで発情期を迎える。それを抑制するための薬は国から支給され、日常生活に支障を来さない措置が取られている。
地位は低いがΩ人口は少なく稀少であり、他のどのタイプよりも妊娠率が高く、人口が減少傾向の一途を辿るこの国にしてみれば、『保護』という大義名分での対応といえよう。しかし本質は、ただ単に彼らに影響され、犯罪や望まない妊娠が増えている治安の悪化を危惧した国の政策に過ぎない。
三種に分類された性別は地位や資産の格差を広げていく一方だ。
晴也にΩと言われ、輝流は困惑の色を隠せなかった。もしも、自身の血液検査の判定にミスがあり、本当はαではなくΩだったとしたら、もうこの学校にも野宮の家にもいられなくなる。
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