3.流血の少女

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 その不良はぶつぶつと何か言いながら私を見下している。  ――これは(がん)を付けられているということだろうか。こいつの沸点は何なんだ。  内心、イラッとしつつも顔には出さないように努める。  揉め事はごめんだ。喧嘩なんてしたことないから、多分負ける。 「スナ、何やってんの!?」  もう一人の不良がそいつを私から引き離す。 「ごめんね! 気にしないで行って。早く」  私は言われるがまま、さっさと学校に向かった。絶対に振り返らずに早足でその場から逃げる。  正直に言うと、怖かった。一体、何だったのか……。  きっと軽そうな方が訳わからない方の社交性を担っているのだろう。社交性が外付けハードディスクなんて情けない。  中学校は見知った顔より見知らぬ顔の方が多い。それは私が他人一人一人に興味がないのもあるけれど、私の通っていた小学校と別の小学校の人間が進学してくるからだ。  だから、小学校のときと雰囲気がかなり変わったと思う。なんだかギスギスしている。  ――あの二人、まるで私と時子みたいだったんだ。  教室に入ってから、私はそんなことに気付く。  時子は決して軽いキャラではなかったし私もあそこまで沸点が低くなかったけど、思い返せば時子が私を色々とフォローしてくれていたと思う。今の私の状態を考えればわかることだ。  何だかんだで周りと合わせられた小学生時代とは違い、中学で私は見事に孤立してしまっていた。  自分の席に座り伏せる。 「コンビニの駐車場で女の子が手を引かれてたけど、なんか様子がおかしくて」  目を閉じながら、クラスの人間の話を盗み聞きするのが日課になっていた。  この話、確かTwitterで話題になっていた奴か。 「それでね、警察が来たんだけど『自分の子供です!』って言って聞かなくて、その人の旦那さんが来てね、その人も変な人で」 「うわぁ」  そんなことを話す声は何処か楽しそうに聞こえる。全く自分に火の粉が降りかからない不幸話だから、明るく話せるのだろう。  この話は、ツイート主が “わかりやすく” 狂った女性の誘拐を阻止したって話だった。  あの話をすっかり信じている人間がいることに驚いた。  あの話は虚言だろう。第三者って設定のはずなのに、警察が来たあとの話もいつまで居座るんだってくらい色々と詳しく書かれていた。
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