3.流血の少女

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 そういえば、一ヶ月前に九州の方で子供を失い “わかりやすく” 狂った母親が殺されていた。  彼女は日頃、人形を失った子供として扱っていて近所との繋がりなかった。夫は彼女が狂う前に消えたのか狂ったあとに消えたのか、わからない。ただ逃げたということだけはわかる。  この事件の犯人はまだ捕まっていない。  現実なんてこんなものだ。  何で、あんな話を信じるのだろう。答えはなんとなく予想できているけれど。  きっと皆、本音では誰も助けたくないからだ。わかりやすく “狂った” 人間を顔では心配や同情を寄せる素振りを見せても、頭の奥では助けなくていい理由を探している。  だから、そういう都合のいい話を無意識に探して食い付く。  ツイート主はこの話をしたのは注意喚起と言っていたが、それは後付けで承認欲求を満たしたかっただけだろう。  人間なんてそんなものだ。――それはきっと私も例外じゃないだろう。  ふと、進路希望調査票を置いたままにしていたことを思い出す。  身体を起こして机の中を見ると、やっぱりなかった。  思惑通りに事が運んで、笑みが漏れる。  孤立してから少し経った頃からだろうか。よく私物がなくなっている。  シャーペンの芯や鉛筆、消しゴムという些細なものから、ノートや制服のリボン、水泳の帽子という大変なものまで数え切れないほどなくなった。  一年の頃に犯人だと思っていた人間は一応いたけれど、二年になって彼女とはクラスが別になった。  それでも、怪しいと思う人はいる。  一ヶ月前、放課後に私の机の前に立って何かしている人間を見た。それを見たのは全くの偶然だった。その人が居なくなったあと、机の中を見てみるとなくなっていたシャーペンが入れられていた。  その人の名前は花見(はなみ) 梨花(りか)だ。派手めの見た目で明るい、本来なら私とは全く縁がないであろう人間だ。  そう、縁がない。強いて言えば出席番号が近いくらいで、ロクに話したことがない。小学校も別だった。  私が見る限りでは朗らかに人生を謳歌している彼女にあんなことをする理由が思い付かない。  けれど、人間は二面性がある生き物だ。彼女の中にも闇みたいなものがあるかもしれない。
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