3.流血の少女

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 どっちにしろ、今は何もしないのが得策だろう。証拠らしい証拠もないのに、突っ掛かることは出来ない。  ――別に現状維持のまま過ごすというのもありだけど。どうせ再来年には縁どころか接点すらなくなる。  来年度は受験しなけらばならない。高校受験が日に日に迫っている。  放課後、私は呼び出されて理科準備室に居る。用意された椅子に座り、呼び出してきた先生を待つ。  本当は来たときに顔を合わせたのだが、向こうに急用が出来たみたいでこうして待つことになった。  話は恐らく進路希望調査票のことだろう。締切は昨日だった。 「日名田(ひなた)先生、話って何ですか?」  それで何故、学年主任でもないこの男に呼び出されるのかは謎だが。  日名田先生が戻ってきた。  優しい笑顔で何でも聞いてくれる、多少の校則違反も見逃してくれる先生。それが生徒側のおおよその日名田先生の評価だろう。  若くて私たちと年が近いからか、わかりやすく生徒からの人気が高い先生だ。 「計野さんがちゃんと待っててくれてよかった」  先生がその評判の笑顔で嫌味のようなことを言いながら、私にオレンジジュースの缶を出す。確か食堂近くの自販機で売っている奴だ。 「まだ進路調査票出してないんだよね?」 「はい。うっかりしていて」  私は笑顔を作る。早く話を終わらせて切り上げよう。 「なくしました。多分、家にあると思うので、探して見つかったら持ってきます」  べらべらとそれっぽいことを言って席を立ち、貰ったオレンジジュースを机に置いた。  そのまま帰ろうと思ったけれど、先生に腕を掴まれる。 「今日、ゴミ箱に進路調査票が捨ててあるのを見たんだ」  ――これは鎌をかけられているのだろうか。先生の瞳を見る。 「それで、提出してないのは計野さんだけなんだよね」  先生の言葉に久しぶりに私物泥棒への怒りが沸いた。 「じゃあ、今から進路相談しようか」 「――えっ?」  顔が強張る。そのまま引っ張られて元の席に座らされた。 「他の先生たちには僕からテキトーに誤魔化しとくから。探すの大変だよね?」  日名田先生がさっきまで腕を掴んでいた手で私の手を握る。表情は心配そうなのに、瞳はいつにも増して輝いているように見えた。
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