3.流血の少女

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「そのためにも君のことをもっと知りたい。僕は君の力になりたいんだ」  その言葉に悪寒が走り、鳥肌が立った。  私は夜道を早足で歩く。朝と確かに同じ道なのに、何でこうも雰囲気が違うのだろう。  進路相談で何とか自分のことを話さず上手くやり過ごしているうちに、すっかり日が暮れてしまった。  ストレートに言うと、日名田先生はなんか気持ち悪い。上手く言えないが、話していると何故か消耗してしまう。  皆はそうじゃないみたいなのが不思議だ。いや、皆とは滅多に話さないから気にしてはいないけれど。――もしかすると、私のコミュニケーション能力の低さが原因かもしれない。  仮にそうだとしても、なるべく関わりたくない。  彼に暗くなったから送ると言われたけれど、断ってさっさと逃げてきた。一人で夜道を歩く方が気が楽だ。  私は一つ、ため息を吐く。明日、理科の授業がある。  明日感じるであろう気まずさに頭を悩ませていると、電話が鳴った。画面には『水橋(みずはし)さん』の文字が出ている。  私は電話に出る。水橋さんはあのときの若い方の刑事だ。フルネームは水橋(みずはし) (あきら)。あれからずっと、何かしらのやり取りが続いている。 『もしもし、(つばさ)ちゃん?』  いつ頃だろうか。水橋さんが私を下の名前で呼ぶようになったのは。  でも、特に抵抗はない。それなりに段階を踏んで接してくれたのが大きい。  それになんとなく私に構う理由がわかる。きっと約束が未だ果たされていないことに負い目を感じているのだろう。 「どうしたんですか?」 『お母さんが帰りが遅いって心配してたよ』  私の顔が熱くなるのがわかった。恥ずかしい。 「お母さん――母がなんだか迷惑かけてすみません」  つい小さく「心配性なんだから。全く」と毒づく。  心配する気持ちはわかるが、いつか誰にも頼れない――頼る相手がいないときがきっと来る。  そうなる前にちゃんと夜道を歩けるようになることは大切だ。襲われたら襲う奴が悪い。 『それで、迎えに行きたいんだけど、今どこ?』  そういえば、水橋さんは母の気持ちを汲むタイプの人間だった。 「い、いいです!  もうそろそろ着きますから」  私は今、あからさまに不機嫌な顔をしているだろう。 「そんなことよりもっと他の仕事してくださいよ」  自然と言葉が刺々しくなる。
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