3.流血の少女

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「それに、こういうのって規則に反しませんか?」  いつも不快に感じたときは水橋さんが言われて嫌だと思う言葉を並べる。  私が水橋さんにそういうことが出来るのは、彼が私に対する負い目があることを知っているのと、私が彼に少し心を開いているからだ。  水橋さんには安心して少し感情的になれる。我ながら本当に可愛くない子供だと思う。  私がそういう風に接することが出来る他人はあと時子くらいだろう。  電話を通して水橋さんと送る送らないの押し問答を繰り返していると、前の方に同じ制服を着た女子が歩いていることに気付いた。  部活帰りだろうか。自分は心配を煩わしく思うくせに、思わず他人を心配してしまう。  声でも掛けて、二人で帰れば今の水橋さんとの不毛なやり取りを強制終了できる。  同じクラス――学年の人間じゃありませんように。出来れば、後輩でお願いします。  そう心の中で願って声を掛けようと決意したとき、彼女が路地裏に消えた。一瞬の出来事で、明らかに彼女の意思ではない何かに彼女は連れ込まれた。 「マジか……」  思わず、そんな言葉が漏れる。ふざけた感じに聞こえたかもしれないが、内心は焦っていた。 『翼ちゃん?』  水橋さんが心配そうに私を呼ぶ。水橋さんの存在は私にとって不幸中の幸いかもしれない。  いなかったら、今より長く呆然としていた。 「警察に連絡、お願いできますか?」 『――えっ?』 「女の子が路地裏に連れ込まれたんですよ」 『えぇ!?』 「私は今から助けに行きます」 『待って。今すぐ向かうから危ないことは』  電話を切る。すぐにマナーモードに切り替えた。  女の子が連れ込まれた路地裏はかなり暗くてよく見えない。隣接する家は片方が空き家で、もう片方は耳が悪い老人が住んでいる。  そして、この路地裏はかなり奥行きがあったはずだ。  さて、どう助けようか。  私は路地裏に繋がるブロック塀を見た。  平均台は得意な方だ。最近は公園で行かないけど、よく時子と競って遊んだ。足が遅い時子だけど、平均台は得意で好きだった。  静かな空間にくぐもった悲鳴と男たちの息遣いが聞こえてくる。  この路地裏の狭さからして、男は二人組だろう。まだなんとかなるかもしれない人数だ。一人は彼女を地面に押さえつける役割でもう一人は。  カチャカチャという音が聞こえてくる。
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