1.彼女が消えた日

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 我ながら可愛くない子供だと思う。  そんなことを思いながら、文庫本を平積みしている棚に戻した。  さっきまで私が手にしていた文庫本は本屋の売り物で、キャンペーン用のカバーが掛けられている。  そのキャンペーンというのは、とあるアニメの本屋をしている主人公がオススメの本を紹介してるという体で行われているものだ。カバーには書き下ろしのキャラの絵と主人公のオススメコメントが書かれている。  私はさっきまでそのキャンペーン本のカバーを外して出版元を確かめていた。当然なことだろうけど、全ての本がアニメの小説版を出してるところと同じ出版元だった。  このキャンペーンはあたかも幅広く本を紹介してる振りをして、実は一つの出版社の本だけ押し付けようとしてる。アニメの主人公を分け隔てなく本を愛する人間からその出版社の回し者に変えた。  大人は子供を見くびっている。こんなキャンペーンに乗りたくない。  これが私の紛れもない本心だが、私の知り合いがこのアニメが好きだ。  そして、その知り合いはもうすぐ誕生日だ。  このキャンペーン、二冊買えば何かよくわからないけど特典が付くらしい。  大人しくキャンペーン本を二冊買うか、キャンペーン本一冊と別の出版元の文庫本を一冊買ってカバーを付け替えてプレゼントするか迷う。 「――やっぱりやめとこ」  何で、私は知り合いの誕生日プレゼントを考えているのだろう。  本来の目的だった新刊のハードカバーを手に取ってレジに向かう。  あの知り合いと私は幼なじみという間柄なんだと思う。物心ついたときから同じマンションに住んでて、母から聞いた話だと産まれた病院も同じだ。  知り合いと私は何もかも正反対だ。私は気が合う存在だとは一度も思ったことはないのに、向こうは私を親友だと言っている。  私は知り合いの考えることがさっぱりわからない。もし、私が同じマンションに住んでいなかったら、彼女は今と同じことを言えるのだろうか。  ま、でも、そんなことはどうでもいいか。もうすぐ私たちは知り合いですらなくなるのだから。
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