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知り合いは私立中学へ行く。まだ受験すら行われていないけど、彼女なら受かるだろう。私と違って、元々勉強ができるうえに週に四日も塾に通っている。
私立中学の何が良いのか私は知らない。公立中学のこともわからないけれど。
中学生に――大人になりたくないな。
会計を終えて、本屋から出る。
日射しが痛くて、暑い。夏だ。この夏休みを終えると小学生最後の年の2/3を消費したことになる。
「あっ」
しばらく商店街を歩いていると、顔を青くして息を切らしている知り合いの姿が見えた。
「と、時子……!」
思わず、声を掛けた。自分の大きな声に驚き、柄でもない行動をしたことに気付く。
「けい?」
知り合い――時子も少し驚いた表情をして立ち止まった。
私は決まりの悪い顔で駆け寄る。
「何やってんの?」
時子は困った表情をする。
「ちょっと急いでいるから、ごめん」
「急いでる?」
私は怪訝な表情に変わる。本当だったら時子は今、塾に向かっているはずだ。終業式前に夏期講習で夏休みがほとんどないと嘆いていた。
それに塾はこことは逆の方向にある。
「それってどういう」
私は時子の腕を掴もうとする。
すると、咄嗟に振り払われた。
「急がないと! お母さんが!」
切羽詰まった表情でそう言われて、私は呆気に取られた。
声を上げた時子はすぐに申し訳な表情に変わり、足早に去っていった。
私はそれをただ見ることしか出来なかった。
じわじわと怒りのようなものが湧いてくる。珍しく声を掛けてやったのに、と心の中で毒づく。
滅多なことをするもんじゃないとも思った。
ムカムカとした気持ちのまま、家に着く。
暑さのせいもあるんだろうか。歩いてれば気が晴れると思っていたのに、全然そんなことはなかった。
「あっ、計野ちゃん」
声を掛けてきたのはおばさん――時子の母親だ。優しく「今、帰ってきたの?」と頬笑む。
「おばさん……?」
私は目を丸くする。さっきまで血相を変えて去っていった時子は何だったんだろう、と。
おばさんは私の表情に首を傾げる。
「さっき時子に会ったんです。商店街で」
恐る恐る、私はおばさんにそう話す。
「おばさんのこと探してて」
さっきの出来事を思い出しながら、視線をコンクリートの地面に向けた。
今まで気にならなかった蝉の声がやけに煩く耳に響く。
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