2.きっと

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2.きっと

 動揺、してるのだろうか。  胸の鼓動が速いけれど、頭の奥がひんやりと冷えている。  奇妙な感覚だ。今の自分の感情が何なのか、わからない。  今、警察の人が来ている。いわゆる、刑事とかいう奴だろうか。若い男と年老いた男の二人組だ。  私は刑事たちと向かい合って座っていた。  彼らは時子のことで来ている。時子が消えて、一晩が明けた。  本当はお母さんが私の隣に座ろうとしたんだけど、それは私が断った。別に一人でも平気だし、お母さんの方が混乱していてこの場に居合わせるのは正直に言うと不安だった。 「せっかくの夏休みなのに、ほんますまんな」  年老いた方の刑事はやけに砕けた口調で話す。 「そいで、最後に疾風(はやて)ちゃんを見たのは商店街ちゅうことか?」  私は頷く。疾風というのは時子の名字だ。かなり変わった名字なうえに大して足が速くなかったので、時子にとってかなりコンプレックスがあったようだ。 「その、商店街の、本屋から家に帰る途中で会ったんです。普通なら塾にいるはずなのに、おかしいなって思って声掛けて……」  猫を被りながら、一つ一つあのときのことを思い返す。 「そのときの時――疾風さんは焦っている様子で『お母さんが』って言ってて……」  そして、居なくなった。  私は時子の背中を見ながらイラついて、声を掛けてやったのに、と思っていたことも思い出す。  自分に対する居たたまれなさだろうか。俯いた。  あのとき、時子は自分の母親の心配をしていた。  何があったのか、何を言われたのかはわからない。ただ、時子が何かに騙されたことだけは確かだ。 「疾風さんは騙されたんだと思うんです。だって、勉強がちゃんと出来る人だから……」  時子は勉強ができる。勉強ができる=頭が良いではないけれど、知らない人間の言葉をあっさりと信じるほどバカではないことも確かだ。  ――ムカついたなりに、あの場で引き留めていれば何か変わっただろうか。引き留めきれなくても、もっと話していれば今よりわかることが何かあったんじゃないのだろうか。  私の胸の奥にある感情は、きっともどかしさだ。自分の不甲斐なさに嫌気が差す。 「大丈夫」  若い方の刑事の声と共に、後頭部に温かな重みを感じる。この重みは恐らくそいつの手のひらで、頭に置かれているのだろう。
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