2.きっと

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 夕方は時子の通う塾へ行き、ビルの入口でそこの生徒に話し掛けたりもした。  雑居ビルの二階にあるその塾は個人運営で、規模もそう大きなものじゃない。  私が話し掛けた人全員が時子は一度も休んだことはなく、真面目に勉強していたと口を揃えて言っていた。一昨日休んだのが、初めての欠席だったようだ。  それと、時子はここの英語教師と個人的に連絡を取り合っていたらしい。英語が時子の苦手科目で、色々と個人的に教えてもらっていたと聞いたって話をされた。  その英語教師の彼女は留学生でバイトということしか教えてもらえなかった。  塾には色々と私の知らない時子の姿があった。  そして、彼女が受験に対して真剣なことを思い知らされた。  私たちはどっちにしろ、きっと小学校卒業とともに別れることになったのだろう。  ――私は自分の頬を強く叩いた。蚊がいた。私の部屋に入ってしまったらしい。  大きく息を吐いて、寝返りを打つ。  まだ、わからない。まだ、決まった訳じゃない。  そう自分に言い聞かせて、瞳を閉じた。  今日もまた外へ出る。その直後、おばさんと鉢合わせになった。おばさんは紙の束を抱えている。その紙には時子の写真が印刷されていて、すぐに何のためのものかわかった。 「あ、あの、手伝います!」  わかった瞬間、考えるより先に喋っていた。その言葉は私にしては素直なもので、きっと考えていたら言えなかったかもしれない。 「ありがとう。でも、計野ちゃんは家で待ってて欲しいの。今、時子が帰ってきたとき、計野ちゃん()に行くと思うから」  また気休めだ、と思った。 「それは大丈夫です。家には母が居ますから」  少し荒い声になる。 「――ダメよ。あなたにまで何かあったら私は……。あなたは子供なんだから」 「ちゃんと暗くなる前には帰りますから」  半ば私は奪う形でおばさんのチラシを半分くらい持った。 「心配しないでください!」  チラシを抱えて走り出す。おばさんは呆気に取られたのか何も言わなかった。  チラシ配りを始めた翌日、今度はおばさんから私に声を掛けてきた。私が持つ紙の束を見て「やっぱり一日で全部配れるものじゃないわね」と言う。
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