2.きっと

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 それから、何処へ配ったのかとか色んなことを聞いてきて、こういうのには許可が必要な場所があることを教えてくれた。昨日のことを気にしている様子はない。 「計野ちゃん、一緒にやりましょう」  そう呼び掛けられて、昨日半ば奪う形でチラシを取っていったことを恥ずかしく思う。  私は謝ることもせず、ただ視線を下に向けて「はい」とだけ言った。謝罪の言葉と声が出なかった。  おばさんは「ありがとう」と私の頭に手を置いた。頭を触られるのは苦手だ。  私は時子が載っているチラシに目をやる。この写真は今年の運動会の障害物競争で三位をとったときのものだ。たかが三位だと思うが、今まで最下位しかなったことの時子にとっては大きなものだ。  今出せなかった声の分も含めて、時子を捜そう。  幾度も報道された時子のこと、今日も伝えられているのだろうか。  あれから日に日に時子を捜す人は増えていった。  でも、それとは反比例して時子の情報は少なくなっていった。  私はそれに苛立ちと焦りのようなものを覚えて、態度に出てしまったのだろうか。  おばさんから「もういいから」と言われてしまった。私には私の生活を送って欲しいと寂しそうな顔で伝えられた。  今日の私は一日中、夏休みの宿題をしていた。今日まですっかり存在を忘れていたそれをなんとか日付が変わる前に終わらせて、ちょっとだけ安堵感を覚えてしまったところだ。  今年の夏休みはただ必死なだけだった。色んなことが押し寄せてきて、結局足掻いているようで何もならなかった。それはきっと何も出来なかったことと同じだ。  布団の中に潜り込む。なんだかんだでまだ沢山あると思っていたのに時間が経つのはいつも速い。  もうすぐ夏休み最後の日が終わる。  誘拐事件というのは時間が経てば経つほど被害者の生存は絶望的になるらしい。  だから、皆はきっと諦めている。口や態度には表さないけど、心の底では覚悟をしてるんだと思う。  あのときの刑事のお兄さんは『見つける』と言ったが、時子の生死には言及してなかった。ちゃんと踏み込んで聞くべきだった。  多分、おばさんだって知っているはずだ。心の何処かではわかっている。  それは誰だって簡単に諦められることじゃない。  でも、きっと時子はもう私たちの前に現れて笑うことはないのだと思う。
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