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3.流血の少女
時子が受験しようとしていた私立中学――三葉女子学園は制服が可愛いことで有名だ。それは少し調べれば簡単にわかることだった。恐らく時子の受験理由の一つだろう。
でも、今更そんなことを知ったって何もかも遅い。
紺のブレザーに袖を通す。鏡に映るのは地味な公立中学の制服を着た私の姿だ。
そんな制服を着せられて、私は今日も「行ってきます」と学校に向かう。
時子が居なくなって、環境は変わった。私の一日の口数は格段と減ったし、おばさんはあまり笑わなくなった。
そして、近くのスーパーの掲示板に放浪老人の写真と一緒に時子の写真が並ぶようになった。
あれから私は中学二年生になったのに、時子の事件に進展なんてない。ただ時間だけが過ぎていってる。
待つということは苦痛だ。
だって、基本的に自分の力じゃどうにもならないことだから。待つということは足掻いて抜けるでも沈むでもない沼に、中途半端に立っているような感覚だ。
でも、人生は待たなきゃいけないことが沢山ある。
今だってそうだ。信号が青になるのを待っている。
私の近くで同じブレザーを着た不良が二人談笑していて少し身構えるが、待つしかない。
こんな風に数多に待つことが多いのに、どうして時子のことだけ諦められるだろうか。そう思って、私の頭の片隅にはいつも時子がいる。
――それにしても、遅い。明らかにおかしい。この信号がこんなに変わらないことはなかった。
チラッと不良どもの近くにある黄色い押しボタン箱を見た。
押されてない。この信号機、押しボタン式なのに。
そう思って、不良どもの前を通りボタンを押しに行く。赤い『お待ちください』の文字が点灯した。
案の定、すぐに信号が赤く立ち止まったマークから青い歩くマークに変わる。
何で、気付かなかったのだろう。こいつら、ここの通学路じゃないのか。この場所では初めて見る顔だけど。
そんなことを考えながらさっさと学校に向かおうとしたが、後ろから引っ張られて進めない。鞄の紐を掴まれていた。
「な、に……?」
紐を掴んでいる不良の一人を見上げる。目付きが悪いから睨まれていると思われるかもしれない。
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