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暗闇。
私は闇に包まれている。
いや、闇と一体化している。
身体の感覚はない。
意識だけが、暗闇に浮遊している。
いつからこうしているのか。今はじめてこの状態に気が付いたような気もするし、もうずっとこのままのような気もする。
不安はない。焦りもない。ただ、疑問だけがふと湧いてきたのだ。
「なぜここにいる?」
すると突如――いや、最初からそこに在ったような気もするが――分厚い緞帳がちらりとめくられたかのように暗闇に隙間が生じ、ゆらりと炎が立ち昇った。
細い、稲妻のような炎。
炎は表情のようなものをもっている。薄ら笑いを浮かべているように見えた。
「なぜここにいる?」
私は言葉を発した――ような気がした。
炎はますます細く上方に伸び、また戻る。
「ほう」
言葉を発したように感じた。
「なぜここにいる?」
私は、同じ質問を発する。炎は愉快そうにゆらゆらと揺れ、静まった。
「死んだのか?」
炎の表情は、相変わらず気味の悪いニタニタ笑いを形作っている。
死んだ? 何が? 誰が?
「私は、死んだのか?」
炎は答えない。
「おまえは、死神なのだろう」
なぜだか確信をもってそう訪ねると、炎はまた、身をくねらせるようにゆらゆらと揺れた。
「これからどこに行く?」
いや、違う。私は言い直した。
「私は、これからどこに行く?」
炎は揺れている。
「死後の世界に行くのでは?」
炎はますますニタニタと笑い、伸びたり縮んだりした。
そして――――――答えた。
「死の後に世界などない。疑問などない。ここがすべて。ここにすべてがある」
私は、「そうか」と、思った。
すべての答えが見つかった。その興奮とよろこびで、心は打ち震えている。
炎は続ける。
「“私”などない。ここにあってはならない」
突如、死神は薄ら笑いを消し、どす黒い怒りを全身から漲らせ、恐ろしい形相に変化した。
黒く燃えさかる炎はぐんぐん大きくなる。私は平静だった心が突如恐怖にかられ、そこから逃げ出そうと必死になった。しかし、何もできない。
際限なく大きくなり続ける炎は私を飲み込み――――――そこで意識が途絶えた。
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