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「歩め、少年よ」
伊助とは別の声、八咫であろう声も建の脳内で招き入れようとしている。
「歩め、同族の血をもって」
「何のことだ、気味が悪い、さっぱりわからないよ」
そう言いながらも、建少年は抗うことも出来ずに、脚は前に進み、気がつけば中央公園の端にある熊野十二社の境内に吸い寄せられていた。
熊野神社の本殿の脇には三つの小さな社があり、そのなかの一つに小さな橋が架かっている社がある。
橋といっても1メートルにも満たない橋で、飾りのような橋である。その橋の欄干の上に伊助が立って、建を見詰めていた。
その腰には今まで無かった刀がささっている。
「こっちへ来い」
伊助の声が建に語りかけると、建は何故か何の疑いも無く伊助の方へ歩み寄ってしまう。
最初に伊助の声が脳内に響いてきたときから、建は目の前に居る鋭利な顔の武士に抗えなくなっていたのだ。
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