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時は少し戻り、甚六の提案を受け入れた甲四郎は、崖を少し下り、丘の「窪み」をよじ登り始めた。
その絶好の頃合いに甚六の弓矢が見張り台にいる者を狙い始めた。
正面から三郎兵衛の本隊が攻めて来る中、思わぬ方角からの攻撃をうけ、東側の見張り台の数人が撃たれた事に砦の者達は気づかず、東側は一瞬で手薄になった。
その好機を見逃さず、甲四郎達は一気に見張り台によじ登り入り、叫んだ。
「行けぇ!攻めろ蹴倒せ!」
甲四郎率いる足軽衆は、砦の東西を繋ぐ足場を駆け出し、敵兵を見つけるなり次々と槍で突き殺していった。
後は甲四郎達の独壇場だ。
板塀の上から攻撃する者は弓矢しか持たされておらず、突然刀や斧や鉈をもった者どもが猛獣のように襲いかかって来るのだからたまったものではない、ほとんどの者が命乞いをして逃げてゆく。
その中、一人の足軽が声を上げた。
「大将じゃ!大将がおるぞい」
「当たれ当たれ」
すかさず甲四郎が声をあげる。
「当たれ」とは体当たりせよ、という意味で、鎧武者の大将は見た目に強そうに見えるが、体当たりを決めて尻餅をつかせてしまえば、鎧を着ているのが仇となり、人の手を借りなければ立ち上がることもできないのである。
足軽は二人ががりで大将と見られる鎧武者に体当たりをし、見事に転ばせた。
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