井藤砦

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 「いけぇぇい!」  黒田三郎兵衛則久が絶叫ともいえる雄叫びを挙げると、それを合図に雑兵や侍が小高い丘の山頂を目指し、斜面を駆け上がって行く。  斜面の先、標高三十メートルほどの頂上には砦が築かれている。  砦は簡易的な構造ではあるが、丘の稜線をなぞるように板塀が打ち付けられていり、その西端と東端に物見台があって、そのほぼ中心部に櫓組の建造物がある急ごしらえとはいえ、かなり本格的な砦である。  それを目指し男どもは自らと周囲を鼓舞するように叫び、吠え、息を弾ませ砦を攻略せんと登って行く。 「怯むな行け!行けぇ!」  この砦奪取を任された総大将、黒田三郎兵衛則久は小柄な躯の底から野獣のような声を発しつつ、緩やかな斜面までは馬上で指揮を執り、急な上り坂にさしかかると下馬馬し、自らも前線に駆けだして行った。 「三郎兵衛様、おやめ下され!大将が撃たれてはどうにもなりませぬぞ!」  
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