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「んっ…まぶし……」
開けっ放しのままのカーテンの隙間から太陽の光が漏れて目を覚ます。
「しず…か……。」
抱きつぶすつもりで一晩中散々喘がせて、眠っている間に逃げてしまわないようにしっかりと抱きしめて眠ったはずなのに静香はもうそこにはいなかった。
「ん~、まじかぁ…。」
今日は日曜日。仕事も休みなので昨日の強硬手段の弁解含めいろいろ話したかったのに本人がいないんじならどうしようもない。
頭を掻き毟り考えてもどうしようもないのでシャワーを浴びるためにベッドを出る。空が白み始めるまで身体を重ねた結果、静香は気絶するように眠りに落ちていき自分も軽く事後処理だけして眠ったはずなのに
主のいないその場所には確かに昨晩の情事の跡が残っていてあの時間が夢ではないことをまだキチンと覚醒してない頭にもしっかりと教えてくれる。バスルームへ向かう途中昨日までは無かったテーブルに置かれた紙に気づいた。
それはどこか癖があって見覚えのあるその文字は紛れもなく静香のものでやはり昨日の出来事を一夜の過ちとして意図的に忘れていようとしていることが書かれていた。やっぱりな…と思いつつメモを手にして宙にかざす。
「でも簡単に逃げられないようにしたつもりなんだけどなぁ〜、っと。」
光にかざした事によって小さなメモの裏にも何か書かれていることに気づき裏返してみると静香とは違う別の誰かの筆跡で
《今回のことは彼女の言葉に免じて見逃す。2度目はない。》
と書かれていた。
これを書いたのはきっと奏とかいうあいつだろう。フロントで静香を見つけて声をかけた時、軽く外出していた感じだったからきっと部屋から出るときもすぐに戻ると思っていたのだろう。だけどそこで自分が掻っ攫ってしまった。なかなか部屋に戻ってこない静香を心配して昨日の出来事に気づいたのか、それとも部屋に戻ってきた静香を問い詰めてこのメモをこの部屋に置かせたのか。
相手に自分のしたことがバレても全く揺らぐことのない気持ちに我ながら驚いた。あのころは全くそんな気持ちが湧かなかったのに時間の流れって怖い。
ベッドに戻り昨日静香が寝ていた場所に触れれば微かにまだ残り香があるような気がした。相手は一般人が簡単に会うことすらできない人物でしかも婚約者の肩書き持ち。それに比べてこちらは大手企業に就職し、それなりの立場と金は持っているが所詮一般市民。
立ちはだかる壁はとてつもなく大きいけれど
「ぜってー負けねーし。」
小さく呟いてからもう一度バスルームに向かった。
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