空白の彼女

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空白の彼女

あれから数日後… あの出来事が嘘だったかと思えるくらい何1つ事態は進展していない。連絡先くらい聞いておけばよかったと今となっては後悔するばかりだ。 まぁあの軽装でフロントにいた静香はそもそも携帯を持っていたかはわからないけど。 憂鬱な仕事を終えてマンションに帰り、ネクタイを外しながら何気なくテレビをつけるとちょうどエンタメニュースが始まったところでアナウンサーが弾んだ声で何かコメントをしていた。 《大人気俳優の奏、一般女性との婚約を発表!!》 画面に映っていたそれはあの日静香を迎えにきていたアイツで目に映る結婚と婚約の文字 は静香が絶対に俺を選ばないということを思い知らされるには十分だった。 相手は芸能人。静香は一般人なので名前は伏せられているが俺を含め同窓会であの出来事を目にした人であれば奏の相手が誰であるか容易に想像できるだろう。愕然としたままテレビの画面を見続けていると携帯の着信を知らせる音が鳴り響く。 「"もしもし秀哉、ニュース…見た?"」 相手は大輝だった。彼は同窓会で東雲と奏とのトラブルを直接みているわけではないけどある程度騒ぎにはなっていたからあの場に来ていた誰かから多少なり話は聞いているはずだ。 「うん、見たよ。」 電話をしながらテレビの画面を見ると車に乗り込もうとする奏にマスコミが殺到している映像が流れていた。一応公式に発表したのだからそんな熱愛みたいな反応しなくてもいいのな。 「"そっか。あの一般女性ってもしかしなくても富松…だよな?隼人からなんとなく同窓会であったことは話聞いてるんだ。"」 やはり大輝も含めあの日同窓会にいた人の何人かはこのニュースを見て想像がつくだろうなぁーとため息が出る。 「俺も多分そう思うよ。あの時は高端も一緒にいたけど奏と高端の空気は恋人同士って感じでもなかったし……富松と奏って奴がホテルの部屋に消えていくのは見たが。」 「"え、まじ!?"」 実際は見かけたわけでないが富松が残した手紙の裏に書かれた文字は明らかに奏が意図して書いたものだった。本来であれば2人はホテルの一室で一晩過ごすつもりだったのだろう。 「"なぁ秀哉、お前もしかしなくてもいまさら富松に気があるわけじゃないよな?"」 確信をついたような大輝の言葉に動きが止まった。なぜ気づかれたのか?その答えは簡単で、幼馴染としてもう20年以上側にいるんだからきっと俺の考えてることはある程度想像がつくのだろう。 「・・・そんなことないよ。」 少しの沈黙を置いて伝えた答えを大輝がどう捉えるか分からないが今は心の内を全てさらけ出す気にはなれない。
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