空白の彼女

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俺の返答に大輝はしばらく黙り込んだ。一応こいつは友人の中で唯一の既婚者だ。未婚の俺たちにはわからない色々な苦労を知っているし幼馴染に黒い噂がつくのはあまりいい気がしないのかもしれない。だからこそあの人、静香を見た俺の視線に気づいて婚約者のいる相手に近づくなと言っているのだろう。 「"秀哉がそう言うなら今は何も言わない事にしておくよ。でも覚えておけよ。今の富松に手を出したらお前はよくても相手は意図せず不倫の片棒を担ぐことになる。その意味をよく考えて行動するんだな。"」 不倫、ね。実はもうすでに手を出していて、しかもそれはあの同窓会の日にことを起こしていたと知ったら大輝は一体どんな顔をするだろうか。まず間違いなく殴られそうな予感がするのはきっと気のせいじゃない、だけどこの気持ちに気づくのに少し時間がかかりすぎたみたいだ。 「忠告、感謝するよ。」 大輝と電話を切るなり俺は携帯に入っている学生時代の友人に片っ端から連絡をとった。 内容はもちろん富松の連絡先、または富松のことを何か知っているかどうか…だ。 さすがに連絡してすぐに返事が返ってくるような奴はそんなに多くはない。中には連絡してすぐに なに?今更アイツのこと聞いてきて同窓会で久しぶりに見かけて好きになっちゃったの!? なんて返事を返してくるやつもいたがそれに対しては全て適当に切った。一通り連絡を終え今後自分がどうしたいのか、どうするか考えるために、そして思考をすっきりさせる為にお風呂へ向かった。 **** 「それで静香の連絡先は結局手に入れられなかったかわりにあたしの連絡先を知ることが出来たってわけね。まったく似た者同士で嫌になるわね。」 目の前に座る高端 絵梨は毒っけたっぷりに話してくるから女はつくづく化けるもんだなと実感する。もちろん中学時代の同級生で誰が一番見た目含めて変わったかと問われれば高端なのだが。 「でも残念ながらあたしも竹松が静香に近づくのには賛成できないからそう簡単に連絡先を教えることはできないわね。わざわざ時間作ってくれたのに申し訳ないけれど。」 高端はそういうと優雅な仕草で置かれたティーカップに入れられたミルクティーを飲んだ。 「確かに俺と大輝のように中学を卒業してからもずっと静香の側にいた高端からすればそう思うのは当然かもしれない。だけど、まだギリギリ結婚していないから今が話をできるチャンスなんだよ。」 すがるように頼み込むが高端はそれでも首を縦には降らない。 それはきっと親友として当然の対応ではあるが今回に限っては了承してくれないとこちらが困る。 「…静香が子供の頃からずっと貴方を忘れることができず苦しんでいたわ。それに当時は貴方もそんな静香を疎ましく思っていたはずよ。それが今になってどうして関わりたがるのか理解できないわ。」 「・・・・・。」 言い返せなかった。 卒業してもなお俺を忘れることが出来なかった静香は俺が進学した高校や大学に顔を出すことも少なくなかった。
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